目次
1. はじめに:眠っている「旧作」、AIで輝かせませんか?
「昔描いたイラスト、今見るとちょっと色合いが古いかも…」 「このデザイン、別の雰囲気でも見てみたいけど、一から色を変えるのは大変…」
クリエイターなら誰しも、過去に制作した作品のデータを持っていることでしょう。それらは大切な創作の記録ですが、時とともに「もっとこうしたい」という気持ちが芽生えることもありますよね。特に配色は、作品の印象を大きく左右する重要な要素です。
もし、そんな眠っているあなたの「旧作」を、まるで魔法のように、最新のトレンドや全く新しい雰囲気の色合いに生まれ変わらせることができたら、ワクワクしませんか?
それを可能にするのが、**Adobe Illustratorに搭載されたAI機能「生成再配色(Generative Recolor)」**です。この革新的な機能を使えば、複雑な操作や深い色彩知識がなくても、簡単なテキスト指示(プロンプト)やサンプルの選択だけで、AIが自動で魅力的な配色パターンを提案してくれます。
この記事では、特にIllustrator初心者の方に向けて、「生成再配色」機能を使って古いイラストやデザインを簡単にリメイクする方法を、ステップバイステップでわかりやすく解説します。
この記事を読めば、あなたもAIの力を借りて、過去の作品に新たな息吹を吹き込み、創造性の幅を広げることができるはずです。さあ、一緒に旧作リメイクの世界を探求しましょう!
2. 「生成再配色」とは?IllustratorのAI機能を知ろう
「生成再配色」と聞いても、具体的にどんな機能なのかピンとこない方もいるかもしれません。まずは、この機能がどのようなもので、どんなメリットがあるのかを見ていきましょう。
機能の概要
「生成再配色」は、Adobe Illustratorに組み込まれた、AI(人工知能)を活用した配色機能です。ユーザーがテキストで「夏のビーチ」「レトロな喫茶店」のようなイメージを伝えたり、用意されたサンプルテーマを選んだりするだけで、選択したアートワークの色をAIが自動で変更し、複数の配色バリエーションを提案してくれます。
Adobe Fireflyとの連携
この機能の裏側では、アドビが開発した生成AIモデル群**「Adobe Firefly」**が動いています。Fireflyは、画像生成やテキストエフェクトなど、クリエイティブな作業を支援するために設計されており、「生成再配色」では特に色彩感覚に優れた能力を発揮します。Adobe Stockの許諾済みコンテンツや著作権が失効したパブリックドメインコンテンツなどを学習データとしているため、商用利用にも配慮されている点が特徴です。(※利用規約は常に最新のものをご確認ください)
従来の配色変更との違い
これまでのIllustratorでも、スウォッチを使ったり、「オブジェクトを再配色」機能を使ったりして色を変更することは可能でした。しかし、それらは基本的に「自分で色を選ぶ」または「ルールに基づいて色を置き換える」作業でした。
一方、「生成再配色」は、「イメージを伝える」だけでAIが配色を「提案」してくれる点が大きく異なります。これにより、以下のようなメリットが生まれます。
- 圧倒的な時間短縮: 複数の配色パターンを試すのにかかっていた時間を大幅に削減できます。
- アイデアの創出: 自分では思いつかないような斬新な色の組み合わせや、特定の雰囲気を表現する配色を発見できます。
- 知識不要: 色彩理論に詳しくなくても、イメージを伝えるだけでプロフェッショナルな配色を実現できます。
どんなことができる?主な特徴とメリット
- テキストプロンプトによる配色: 「サイバーパンク」「森の朝露」といった具体的な指示で色を生成。
- サンプルテーマの活用: 予め用意された「ネオン」「テラコッタ」などのテーマから選択可能。
- 複数のバリエーション生成: 一度の指示で複数の配色案を提示。比較検討が容易に。
- ベクターアートワークへの適用: Illustratorで作成したベクターオブジェクトの色を直接変更。
- 直感的な操作: 簡単なパネル操作で初心者でも扱いやすい。
このように、「生成再配色」は、あなたのイラストやデザインに新しい命を吹き込むための強力なツールなのです。
3. リメイク前の準備:Illustratorで旧作データを開こう
「生成再配色」を使う前に、リメイクしたい作品のデータをIllustratorで開いて、少し準備をしましょう。スムーズに作業を進めるためのポイントをいくつかご紹介します。
対応するファイル形式
「生成再配色」は、基本的にIllustratorのベクターオブジェクトに対して最も効果を発揮します。.ai
や .svg
形式で保存されている、パスやシェイプで構成されたデータが理想的です。
- ベクターデータの場合: パス、シェイプ、テキストオブジェクトなどが含まれるファイル。色情報が個々のオブジェクトに紐づいているため、AIが色を認識し、効果的に再配色できます。
- 画像(ラスターデータ)を配置している場合: JPEGやPNGなどの画像をIllustratorドキュメント内に配置しているだけの場合、その画像自体の色を「生成再配色」で直接変更することはできません。ただし、画像以外のベクター部分の色を変更したり、画像の色を参考にベクター部分の配色を生成したりすることは可能です。本格的に画像の色を変えたい場合は、Adobe Photoshopの生成AI機能(生成塗りつぶしなど)の利用を検討しましょう。
オブジェクトの選択状態の確認
AIに配色を変更してほしい部分を正確に伝えるために、オブジェクトが適切に選択できる状態か確認しましょう。
- グループ化: 複数のオブジェクトをまとめて同じように扱いたい場合は、事前にグループ化 ([オブジェクト] > [グループ] または
Ctrl+G
/Cmd+G
) しておくと便利です。逆に、部分的に色を変えたい場合は、グループ化を解除 ([オブジェクト] > [グループ解除] またはShift+Ctrl+G
/Shift+Cmd+G
) するか、ダイレクト選択ツール(白い矢印)で個別に選択する必要があります。 - レイヤー構造: 複雑なイラストの場合は、レイヤーが整理されていると作業しやすくなります。特定のレイヤー上のオブジェクトだけを選択して再配色することも可能です。
作業前のバックアップの重要性
AIによる自動処理は非常に便利ですが、予期せぬ結果になる可能性もゼロではありません。また、元の配色を残しておきたい場合も多いでしょう。
必ず、作業を始める前に元データのコピーを別名で保存([ファイル] > [別名で保存])してください。 これにより、いつでも元の状態に戻せる安心感の中で、自由に「生成再配色」を試すことができます。
準備が整ったら、いよいよ実際に「生成再配色」を使ってみましょう!
4. 実践!生成再配色でイラストをリメイクするステップ
ここからは、具体的な操作手順を追いながら、「生成再配色」で古いイラストをリメイクする方法を解説します。今回は、例として過去に描いたキャラクターイラストの色を変更してみましょう。
STEP1: リメイクしたいアートワークを選択する
Illustratorでリメイクしたいファイルを開き、**選択ツール(黒い矢印)**を使って、色を変更したいオブジェクトを選択します。イラスト全体の色を変えたい場合は、アートボード上のすべてのオブジェクトを選択(Ctrl+A
/Cmd+A
)します。
STEP2: 「生成再配色」パネルを開く
アートワークを選択した状態で、上部のメニューバーから [編集] > [カラーを編集] > [生成再配色] を選択します。
すると、「生成再配色」のパネルが画面に表示されます。このパネルが、AIと対話しながら配色を進めるための操作画面となります。 (注: この機能を使用するには、インターネット接続が必要です。また、比較的新しいバージョンのIllustratorが必要です。)
STEP3: プロンプト(指示テキスト)を入力して配色を生成する
パネル内の「プロンプトを入力」フィールドに、実現したい色のイメージやテーマを説明するテキストを入力します。日本語での入力に対応しています。
- 具体的なプロンプト例:
- 雰囲気・テーマ系:「夕焼け空」「深海」「サイバーパンクのネオン街」「春のパステルカラー」「レトロな喫茶店」「ハロウィンの夜」
- 色指定系:「青とオレンジを基調に」「暖色系のグラデーション」「モノクローム」
- 質感・素材系:「錆びた金属」「シルクのような光沢」「水彩画風」
- 良い結果を得るためのプロンプトのコツ:
- 具体的に: 曖昧な言葉より、具体的なシーンや物を描写する方がAIは理解しやすいです。(例:「きれいな色」より「エメラルドグリーンの海」)
- 複数の単語を組み合わせる: 「静かな森、朝露、木漏れ日」のように、関連するキーワードをいくつか入れると、よりイメージに近い結果が出やすくなります。
- 試行錯誤する: 最初から完璧なプロンプトを入力するのは難しいものです。思いついた言葉でどんどん試し、結果を見ながら調整していくのがおすすめです。
プロンプトを入力したら、[生成] ボタンをクリックします。しばらく待つと、AIがプロンプトに基づいて解釈した配色案を、パネル下部の「バリエーション」として複数提示してくれます。
STEP4: サンプルプロンプトやカラーパレットから選択する (任意)
テキストプロンプトだけでなく、パネルに用意されている**「サンプルプロンプト」**から選ぶこともできます。「サボテンの花」「サーモンにぎり」「銀河」など、多様なテーマが用意されており、クリックするだけで簡単に試せます。アイデアに詰まったときに便利です。
また、「カラー」タブに切り替えると、既存のカラーパレット(スウォッチ)やハーモニールールに基づいて色を調整することも可能です。
STEP5: 生成されたバリエーションを確認・選択する
「バリエーション」欄に表示された複数の配色サムネイルをクリックすると、選択中のアートワークにその配色がリアルタイムで適用され、プレビューできます。
気に入った配色が見つかるまで、様々なバリエーションを試してみましょう。プロンプトを変えて再度 [生成] をクリックすれば、さらに多くの候補を得られます。
STEP6: 結果を微調整する (任意)
生成された配色が「ほぼ良いけど、この部分の色だけ少し変えたい」という場合もあるでしょう。「生成再配色」パネルだけでは完璧な調整が難しい場合がありますが、気に入ったバリエーションを適用した後、通常のIllustratorの機能(ダイレクト選択ツールでオブジェクトを選んでカラーパネルやスウォッチで色を変更するなど)を使って手動で微調整することも可能です。
STEP7: 新しい配色の作品を保存する
満足のいく配色が決まったら、作業は完了です!リメイクされた新しい作品を保存しましょう。元のファイルと区別するために、[ファイル] > [別名で保存] を選択し、新しいファイル名を付けて保存することをおすすめします。(例:「イラスト名_リメイク_v1.ai」など)
これで、あなたの旧作が「生成再配色」によって新たな姿に生まれ変わりました!
5. もっと活用!生成再配色の便利な使い方アイデア
「生成再配色」は、単に古い作品の色を変えるだけでなく、様々なクリエイティブな場面で活用できます。いくつかアイデアをご紹介しましょう。
- 季節ごとのカラーバリエーション作成: 同じデザインのイラストやバナーを、プロンプトに「春」「夏」「秋」「冬」と入れるだけで、簡単に季節感のあるカラーバリエーションが作れます。SNS投稿やWebサイトのシーズンコンテンツに便利です。
- ブランドカラーへの適用: クライアントワークなどで、指定されたブランドカラーに既存のデザインを合わせたい場合。「〇〇(ブランド名)のブランドカラー、青とグレーを基調に」のようにプロンプトを入力すれば、トンマナを合わせた配色案を素早く得られます。
- キャラクターデザインの配色検討: 新しいキャラクターをデザインする際、衣装や髪の色で悩むことは多いですよね。「生成再配色」を使えば、「元気なイメージ」「ミステリアスな雰囲気」「未来的なスタイル」といった指示で、多様な配色パターンを瞬時に試すことができ、キャラクター設定に合った最適な色を見つけやすくなります。
- WebサイトやSNS用素材のトーン調整: Webサイト全体の配色テーマや、特定のキャンペーンのイメージカラーに合わせて、アイコンやイラスト素材の色を一括で調整したい場合に役立ちます。「くすみカラー」「ビビッドカラー」などの指示で、全体の統一感を簡単に出せます。
- A/Bテスト用のデザイン作成: 広告バナーやランディングページなどで、どちらの配色がより効果的かテストしたい場合。「生成再配色」で複数の異なる印象の配色パターンを素早く作成し、A/Bテストにかけることができます。
- アイデア出し・インスピレーション: 配色に行き詰まったとき、とりあえず「生成再配色」に何かプロンプトを投げてみるだけでも、思わぬ色の組み合わせや新しい表現のヒントが得られることがあります。
このように、「生成再配色」は使い方次第で、あなたのクリエイティブワークをより効率的で、より豊かなものにしてくれる可能性を秘めています。
6. 知っておきたい「良い面」と「難しい面」
非常にパワフルで便利な「生成再配色」ですが、万能ではありません。活用する上で知っておきたい「良い面(メリット)」と「難しい面(デメリット・注意点)」を整理しておきましょう。
良い面(メリット)
- 圧倒的な時間短縮: 手作業で配色を試行錯誤するのに比べ、比較にならないほど短時間で多くのバリエーションを作成できます。
- 自分では思いつかない配色との出会い: AIならではの意外な色の組み合わせや、特定の雰囲気を巧みに表現する配色が生成されることがあり、インスピレーションの源泉となります。
- 初心者でも簡単に多様な表現が可能: 色彩理論の知識が浅くても、テキストでイメージを伝えるだけで、プロレベルの配色を試すことができます。デザインのハードルを下げてくれます。
- アイデア出しの強力なサポート: 配色検討の初期段階で、大まかな方向性を探るためのツールとして非常に有効です。
難しい面(デメリット・注意点)
- 意図通りの色が出ない場合がある: AIの解釈によっては、プロンプトで指示したイメージと少し異なる配色が生成されることがあります。プロンプトを工夫したり、何度か生成し直したりする必要があります。
- 細かい色の指定には限界がある: 「このオブジェクトのこの部分だけを特定の色に」といったピンポイントでの精密な色指定は、現状の「生成再配色」だけでは難しい場合があります。最終的には手動での微調整が必要になることが多いです。
- Adobe Illustratorのサブスクリプションが必要: 「生成再配色」はIllustratorの機能の一部であるため、利用するにはAdobe Creative Cloudの契約が必要です。
- インターネット接続が必須: AI処理はクラウド上で行われるため、機能を利用するには安定したインターネット接続環境が必要です。
- 生成AIの特性理解(著作権・商用利用など):
- 「生成再配色」はAdobe Fireflyを基盤としています。Fireflyは商用利用可能な設計を目指していますが、生成されたコンテンツの利用にあたっては、常にAdobeの最新の利用規約やガイドラインを確認する必要があります。特に、生成結果が既存の著作物と類似していないかなど、注意が必要です。
- AIは時として予期せぬ結果を生成する可能性もあるため、最終的なアウトプットは必ず人間の目で確認し、責任を持つことが重要です。
これらの点を理解した上で活用すれば、「生成再配色」はあなたのクリエイティブ活動を力強くサポートしてくれるはずです。
7. まとめ:AIの力で創造性の扉を開こう
今回は、Adobe IllustratorのAI機能「生成再配色」を使って、古いイラストやデザインを手軽にリメイクする方法をご紹介しました。
簡単なテキスト指示やサンプルの選択だけで、眠っていた作品が驚くほど多様な表情を見せてくれる。これは、まさにAIがもたらしたクリエイティブの新しい可能性と言えるでしょう。「生成再配色」を使えば、面倒だった配色の試行錯誤が、もっと手軽で楽しいプロセスに変わります。
もちろん、AIがすべてを解決してくれるわけではありません。時には意図通りにいかないこともありますし、最終的な仕上げには人の感性や微調整が不可欠です。しかし、**「まずは試してみる」**ことが大切です。失敗を恐れずに、色々なプロンプトを入力し、AIとの対話を楽しんでみてください。きっと、これまで想像もしなかったような、新しい色の世界が広がっていくはずです。
制作したリメイク作品は、ぜひ**X(旧Twitter)**などのSNSでハッシュタグ(例: #生成再配色
, #イラストリメイク
, #AdobeIllustrator
)を付けて共有してみましょう。他のクリエイターの作品を見たり、自分の作品への反応を得たりすることで、さらなる刺激や学びがあるかもしれません。
AI技術は日々進化しており、クリエイティブツールとの連携もますます深まっています。「生成再配色」のような機能を積極的に活用することで、初心者の方も、経験豊富なクリエイターの方も、ご自身の創造性の扉をさらに大きく開くことができるでしょう。